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東京家庭裁判所 昭和32年(仮処分日記)1号 判決

主文

債務者は、その所有名義の別紙目録の不動産について、譲渡、質権、抵当権、賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない。

昭和三十二年九月二十七日

東京家庭裁判所家事審判部第六部

裁判官 村崎満

附加理由

財産分与の審判を本案とする仮処分事件の管轄裁判所は地方裁判所でないとしても、それがために直ちに家庭裁判所の管轄に属するとするに疑問がもたれるところである。蓋しその理由とするところは家庭裁判所は調停と審判について裁判権があるだけであつて、判決決定の裁判権はないというのがその一である。しかしながら民訴法上の仮処分事件が家庭裁判所にて取扱われるかということは、家庭裁判所でなされた調停、審判に対しての請求異議等の訴の管轄裁判所が何れかという問題と同様に、家事審判所から家庭裁判所に発展した際の立法の欠陥より生じたものであるけれども、法の欠陥のために地方裁判所にも又家庭裁判所にも訴求ができないと解することは正しい法の解釈ではない。この点民訴五四五条の請求異議の訴については第一審の受訴裁判所とは夙に家庭裁判所であると解されているところであるから、民訴七五七条の仮処分事件の本案裁判所についても殊更これと異る見解をとる必要はない。蓋し家庭裁判所もその職務内容には可成り行政的色彩を帯びてはいるが、最高裁判所所轄の下級裁判所であることに相違ないのであり、且その勤務の裁判官も地方、高等裁判所の裁判官と異るところがないのであるから、これらの事件が家庭裁判所裁判官によって処理されて何等国民の権利を侵害する等の不都合のないわけである。

次に若し家庭裁判所にて民訴法上の仮処分がなされるとするときには、仮処分に対する異議は勿論のこと、仮処分自体も事情によっては慎重な判決手続で処理されるものであるのに対して、その本案裁判は簡易な審判手続でなされることになるから、それは本末顛倒の手続となるとも解されよう。しかしこの非難は常に判決手続は審判手続より慎重な手続であると考える点に誤がある。蓋し判決手続と審判手続の差は形式的には審理手続が公開されるか否かに在つて、その他弁論主義職権主義等若干の手続上の差があつても、それは何れも真実発見のための方法の差であつて本質的には何れも事実認定の上法を適用する裁判官の判断作用であつて、この間別段の差はないのである。のみならず、仮処分事件における事実認定はそれが判決手続でなされようが、決定手続によろうが、何れも疎明を以てたるに対して、審判事件の審理はそれ以上の証明を必要とする点からしても、却つて審判手続は仮処分判決手続以上の慎重な手続にて処理されるべきものであるから、右の非難はあたらない。

更に又民訴の仮処分は判決を前提とするものであるから、財産分与の如く審判を本案とする事件では仮処分は許るされないとの法文の辞句にとらわれたる見解も考えられようがこれ亦それには左袒しがたい。蓋し判決とは形式的には口頭弁論を経たる裁判であり、実質的には権利関係存否を確定する裁判であるに対して、審判は非形式的な審理手続による裁判であり、実質的には権利関係を形成する裁判であるが、口頭弁論の存否とが、その裁判が権利関係の確認か形成かであるによって仮処分の許否を決定すべきとする見解は理由ない。

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